散歩の効能

 

 今日は曇り空の京都東山です。さて、私は東山山頂公園まで、健康増進に日頃散歩しているのですが、同じことを感じていらっしゃる方がおられるんだと共感しまして、天台ジャーナル第221号より転載させていただきます。

 伝教大師最澄上人が開創された比叡山では「回峰行」や「常行三昧」など歩くことに縁深い修行が今なお続いている。この場合の歩行は、目的地に移動する手段ではなく、「止観」すなわち自身の心を観察し、悟りに至るための行いとなる。

 修行と比べたら不遜だが、日頃続ける散歩中にもいろいろな発見がある。たとえば地元日光市に二宮尊徳翁が造った五箇村用水の存在を知ったり、東電のものとばかり思っていた発電所が、実は渋澤栄一が起業した下野製麻の創建であったり、渓流の中の魚影に気がついて見入ってしまったり、普段気付かない生活を支える仕組みや、埋もれた歴史、自然の姿を改めて知るという具合である。

 中でも近ごろの大発見は、子どもの頃から見慣れた女峰山が、数10万年前には今より遙かに高い山だったということだ。その後くり返された噴火で出来たカルデラが浸食されて今の稲荷川の大きな谷を形作った。 山内周辺に広がる岩石の様相から、その深い谷が元は一繋がりの大きな山麓だったことがわかり、驚いた。すると川の見え方までも、まるで変わってくる。 そこに見えるせせらぎの中の巨岩も、気の遠くなるような年月をかけてカルデラから運ばれ、丸くなめらかな形となって、たまたま今そこにあるのだと。

 宇宙の年齢は138億年、地球誕生から46億年。それに比べれば数10万年などあっという間、ましてや『法華経』の「如来寿量品」に説く「永遠の仏」に至っては人間の想像を超えた世界観。私たちはこうしたおおきな流れの中で、ほんの束の間、命を頂いているにすぎない、と気付く。

 なれば散歩中、先々のことをあれこれ思い悩むこともあるが、一度きりの人生、明るい未来を心に描きながら過ごさなければもったいない、と気を取り直す。

 日課の散歩は定期的な血液検査に如実に現れ、結果によっては妻の愛情に満ちた指導が待っているから休むわけに行かないのだが、徒歩ならではの気付きを得ることもまた、「散歩三昧」の大きな功徳というものなのである。(栃木教区浄土院住職今井昌英師筆)

 「天台ジャーナル」は、天台宗出版室が毎月1日に発行している天台宗の広報誌です。このような読み物も掲載されており、楽しい紙面となっています。年間600円(税込・送料別)にて購読が出来ますので、是非、お申し込みください。

今日も楽しい一日を。

■天台宗の出版物はこちらから↓↓

http://www.tendai.or.jp/shuppan/index.php