人は見かけによらぬもので

今日は曇りで少々寒いです。

さて、「一切衆生悉有仏性」という言葉が涅槃経にあります。この世の生きとし生けるすべての生き物は、生まれながらにして、みな仏になる性質を持っている、という意味です。仏教の基本的な考え方のひとつで、私たちは、日々精進、お修行をすることで、お釈迦さまのように悟りを開くことが出来ますし、そのために努めなくてはなりません。つまり、人はもちろんのこと、動物から虫まで、大木から雑草に至るまで、すべての命を大切にしなくてはいけないのです。

しかしながら私たちは、自分に不快を与えるものに対しては否定的な気持ちになり、それを排斥しようとします。例えば、蚊・ノミ・ハエ・ゴキブリ・ムカデなどは、もっぱら害虫として忌み嫌われている存在です。この他、数え切れない不快な生き物に対しても、慈悲の心で接することなど、とても難しくて到底出来そうにありません。

ところで、ムカデを愛でる方は皆無に等しいと思いますが、実は毘沙門天さまの「お使い」であったりします。なぜ「お使い」なのかは諸説あるようですが、古くは、武田信玄などの戦国武将たちは、毘沙門天さまが武神で戦勝の神とされることと合わせて、ムカデは、一糸乱れず果敢に素早く前に進み、決して後ろへ退かないなどとして、武具甲冑や旗指物にムカデの絵図を描いたりしたとされます。また、「百足」と書くように、たくさんの足のうち、たった一足でも歩調や歩く方向が違うと前に進むのに支障がでるところから、困難や問題に向かう時には、みんなが心を一つにして当たるようにとの教えであるとか、ムカデは足が多いので、おあし(銭)がたくさんついて金運を呼ぶのだとか、商人や芸人の間では「客足、出足」が増え繁盛するなどとも言われているようです。

この様に考えてみますと、何事も外見だけで判断するものではなく、もし、受け入れられないようなことや、不快に思うことに遭遇した場合には、よくよくそれらを観察して、何とか受け入れるためにムカデのように様々なよい見方を考え出すところに智慧が存在するように思います。我々は「悉有仏性」なのですから、そうやって、ひとつひとつ物事を受け入れて、心を広く、柔らかくして、あらゆるものと仲良く、かつ、大切にしていきたいものです。

今日も楽しい一日を。