月の兎

 どんより曇り空にて暗い京都東山です。さて、昨夜のお月見はされましたでしょうか。寺からは拝むことができましたよ。

 ところで、なぜ「月にはうさぎいる」といわれているのでしょうか。そもそもは、インドの仏教説話集「ジャータカ物語」に由来します。ジャータカ物語とは、ブッダの物語を集めて紀元前にできあがっもので、日本にも伝わり「今昔物語集」や各地の民話のもととなっています。今昔物語集には「三獣行菩薩道兎焼身語」として次のような物語がおさめられています。

 今は昔、天竺(インド)で、うさぎ、キツネ、サルが一緒に暮らしていました。3匹は菩薩の修行を毎日続け、敬い合っていました。

 そんな3匹の様子を見ていた帝釈天さまはその行いに感心し、本当に仏の心を持っているのかどうかを試そうと考えます。そこで帝釈天さまは、老人に変身して3匹のもとを訪ね、「貧しく身寄りもない年老いた私を養ってもらえないか」といいます。3匹はその申し出を快く受け入れ、老人のために食べ物を探しに行きました。

 サルは木の実や果物を、キツネは魚を施すことが出来ました。ところが、うさぎは老人が食べるものを見つけることができませんでした。そんなある日、うさぎは「食事を探してくるので火をおこして待っていてほしい」といいます。早速、サルとキツネが火をおこしましたところ、うさぎは自分自身を老人に食べてもらおうと火の中へ飛び込み、死んでしまいました。

 すると老人はもとの帝釈天の姿に戻り、うさぎのこの慈悲深い行動をすべての生き物に見せるため、その姿を月の中に映すことにしたということです。

 伝教大師さまは、「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」と仰せです。何かしら周りの人たちにして差し上げられることはないでしょうか。今日も楽しい一日を。